EC(電気伝導度)のお話
適正な土壌ECはいくつか
土壌のEC値(電気伝導度=土壌溶液中に肥料が多いか少ないかのめやす)が高すぎると、作物の生育が悪くなるといいますよね。キャベツやハクサイ、ホウレンソウなどの葉菜類ではEC1.0~1.5より高くなると濃度障害で発芽が悪くなり、特に発芽段階の植物には影響が大きくなります。
土壌水分(含水率)が高いと、溶けこんでいる物質の濃度が下がり、EC値が抑えられる傾向にあるそうです。高EC値による発芽障害が気になる場合には、土壌が乾燥しすぎないように注意したほうが良いでしょう。
ECを高めてしまう原因
土壌のEC値を高める原因としては、肥料のやりすぎと種類のチョイスミスが多いと思います。肥料(物質)によって土壌EC値の上がりやすさに差があり、例えばリン酸肥料の場合は過リン酸石灰がもっともEC値を上げやすく、ついでリン安、ようりん、焼リンと続きます。リンの効き方も重要ですが、ECに対する影響も一考の価値はあると思います。
肥料過剰、特に硝酸態窒素過剰がECを上げることがよく知られていますが、その他にも硫酸イオンや塩素イオンもECを上げる原因になります。「塩素や硫酸なんて肥料で使わないよ!」と思われるかもしれませんが、畜ふん堆肥に含まれるカリウムはだいたい「塩化カリウム」か「硫酸カリウム」といった物質で、これらを連用しているうちに、知らないうちに塩素イオンと硫酸イオンが蓄積し、土壌ECを上げている場合があります。怖いですね!
この場合、EC値が高いからといって窒素を減肥すると、窒素欠乏で生育が悪くなる恐れがあります。EC値は肥料成分量を推し量るバロメーターですが、その値だけを過信するは禁物です。併せて窒素成分(アンモニア態窒素、硝酸態窒素)も分析することをおすすめいたします。
ECを下げる方法
ハウス生産者様と土壌分析の話をしていると、EC値が2~3と極めて高い圃場が多いことに驚きます。露地と異なり、ハウスでは降雨の影響がありませんし、周年で何回転も連作するケースも多いことが主な原因だと思います。(露地では雨水によって土壌水分が上から下へ、重力にしたがって移動します。このとき、土壌溶液に溶けている物質はより下層へ溶脱していきます。ハウスの場合は逆のことが起こる場合があって、地表面の乾燥・蒸発によって肥料成分等が土壌表面に上がってきて集積することがあります。)
それで作物が取れていれば問題はないのですが、実際に障害が出始めてから対策を打つのはかなり大変ではないでしょうか。
EC値を下げる最も確実な方法は、土壌分析を行いながら減肥していくことだと思います。畜ふん堆肥を連用されている場合は施用を休止するのも有効ですが、肥料成分の低い植物質主原料の土壌改良材・堆肥類に切り替えるのがオススメです。弊社の「有機王®」や「スーパー越の有機®-2号」は木質残さやモミガラなどが主原料で、EC値の高い圃場でも使いやすいと思います。
もっと短期間にEC値を下げたい場合、方法はいくつかあります。①クリーニングクロップ(除塩用作物に肥料を消費させる)②稲わらすきこみ(稲わらを分解する微生物に硝酸態窒素をとりこませる)③表層土をはがしてどこかへ持っていく④深耕して作土の下層と混ぜて薄める、または天地返しを行う⑤ハウスの被覆をはがして土壌を雨にあてる⑥水をひたすらかけつづける。などなど、いずれもかなり手間がかかる方法です。また、水をかけ続けてもリン酸は流されにくい(土壌中でカルシウムや鉄などと結合して固形物となっている割合が高い)特性がありますし、いずれの方法が適しているかは作物や栽培スケジュール、費用なども考えて決める必要があります。
作物の品質のためにも、適正な施肥を
EC値の高い圃場では、硝酸態窒素が過剰に蓄積している場合が多いと思います。一般的に、作物の体内に含まれる硝酸態窒素の濃度が高くなると収穫量は増加しますが、食味や糖度といった美味しさに関わる数値は悪化していく傾向にあります。たとえば、ホウレンソウでは硝酸態窒素含有量が増加するほど糖やビタミンCの含有量が低下し、食べてみるとエグみを感じるといいます。
本格的な除塩は難しくても、ちょっとした工夫で植物体内の硝酸態窒素濃度を少しでも下げられないかと思いますよね。そんなテクニックの事例としては、朝取りを夕取りに変更することで葉物野菜の硝酸イオン濃度が下がったという話があります。また、ハウス被覆が古くなって透光性が低下している場合、新しいものに交換して光合成効率を上げることで解決した事例もあるそうです。
何にせよ、圃場に余分な肥料を持ち込まないほうが省コスト・省力だと思いますので、土壌分析を活用しながら、ご自分の圃場に必要な施肥の設計をしていただければと思います。
株式会社ホーネンアグリ営業部 坂野(土壌医)