土壌改良材のススメ③微生物の拮抗作用編
仁義なき覇権抗争!? 微生物の拮抗作用
微生物の世界は椅子取りゲームに例えられ、まるで限られた席を奪い合うかのように、縄張り争いをする性質があるといいます。例えば二種類の微生物を一つのシャーレに入れて培養すると、それらはどんどん増殖して自分たちの領域(コロニー)を広げていきますが、最終的には境界線をはさんで互いの増殖を抑制しあうような形になります。こうした微生物同士の関係を「拮抗作用」と呼びます。
土壌中の微生物も同様のルールに則って生息しており、特定の菌が繁殖するのを抑制するように作用しあいます。これを静菌作用といいます。また、土壌中の善玉菌の代名詞ともいえる放線菌は、フザリウム(悪玉菌の代名詞)などの糸状菌の繁殖を阻害するものがいることが知られています。(フザリウムなどの表皮はキチン質でできていますが、放線菌のなかにキチン質を分解する酵素「キチナーゼ」を出すものがいるためです。)また一般的に、トリコデルマ菌は他のカビの発生を抑えることが多いそうです。
細菌vs糸状菌 B/F値を上げるポイント
ところで、細菌(バクテリア)と糸状菌(カビ類)の数の比率をB/F値と言います。この値は、土壌病害の発生しやすさに影響があると言われ、細菌数が糸状菌数の100倍以上(B/F値100以上)であることが好ましいそうです。堆肥などを連用した土壌ではこのB/F値が高くなる傾向にありますので、土壌病害や連作障害になりにくい健全な土壌にするために、定期的に良質な堆肥等を施用すること推奨されています。
土壌消毒をしたのに・・・フザリウム大繁殖の謎
ここで一つのミステリーをご紹介したいと思います。日本農薬学会誌第25巻第2号に掲載された論文(※)によると、⓵クロルピクリンで消毒した土壌、②消毒をしていない土壌、それぞれにフザリウムを加えて3週間培養したところ、最終的に⓵の消毒済み土壌のほうがフザリウムが5倍も多く増殖したそうです。これが本圃だったら大変なことです。なにせ、せっかくの土壌消毒が逆効果、努力が水の泡になってしまうのですから。いったい、何故このような事が起こってしまうのでしょうか。
この論文では土壌消毒後の微生物の多寡(多いか少ないか)の差が影響したと推察しています。つまり、土壌消毒していないほうは元々の微生物数が多かったので、フザリウムの増殖に対しては抑制的(つまり邪魔をする方向で)作用したということです。
土壌消毒後に、微生物的なアフターケアを!
土壌消毒などで微生物数が激減すると、微生物同士の拮抗作用(静菌作用)に大きな空白地帯ができてしまい、病原性微生物がのびのびと繁殖してしまう危険性があります。これは人間で例えると免疫力が低下したような状態だと思います。
逆に言えば、土壌病害が発生しているような圃場では、土壌消毒直後は現状打破する絶好のチャンスです。土壌消毒後は全体的に菌数が低下し、病原性微生物もかなり減少していますから、ここで拮抗する微生物群を土壌に投入すればインパクトは大きいはずです。土壌微生物は時間経過とともに拡大コピーを繰り返すように増殖していきますから、その後の微生物のバランスは大きく変わってくるはずです。
弊社では土壌消毒・ガス抜き後にアフターケアとして堆肥・土壌改良材を施用することをおすすめしています。スーパー越の有機-2号や有機王といった資材を土壌に施用することで、微生物を補給してはいかがでしょうか。土壌消毒後に土壌病害が再蔓延するような悪循環にならないために、微生物のバランスを継続的に維持・改善していただきたいと思います。
株式会社ホーネンアグリ 営業部 坂野(土壌医)
※参考文献:日本農薬学会誌第25巻第2号 平成12年5月掲載 「土壌微生物相に及ぼす土壌くん蒸剤の影響およびくん蒸後の土壌に接種されたFsarium oxysporumの増殖」井藤ら