腐植とは何か ~その恩恵と維持の要点~
そもそも、腐植って何? 言葉の定義
「腐植」という言葉を皆さんもよく耳にされると思います。「腐植が多いから肥沃な土だ」とか「畑に腐植を入れると良い」などと言われますが、そもそも腐植って何でしょうか。「腐植」という言葉の定義はちょっと複雑で、誤解を招きやすい部分だと思います。
まず、広い意味での「腐植」は「土壌中に存在する有機物のうち、新鮮な植物遺体と微生物を除いたもの」をさします。生きていない有機物といったイメージでしょうか。これらの動植物遺体や新鮮有機物が分解されていくと、その一部は変質し、金属や粘土物質と組み合わさって、泥炭のような暗色の物質を形成します。この物質を「腐植物質」と呼びます。また、腐植物質の中で酸やアルカリに溶けるものが「腐植酸」です。
「腐植」というワードがいろいろなところに出てくるのでちょっと混乱しますよね。「腐植が〇〇%」といった話をするとき、上記のどれを指すのかが重要です。土壌中の腐植を分析するとき、全炭素の測定値から推定する方法がありますが、その場合は広い意味での「腐植」を指しています。また土づくりでよく「腐植が大切」と言われますが、この場合は「腐食物質」や「腐植酸」を指していることが多いと思います。
多岐にわたる腐食の恩恵
腐植の恩恵(ありがたみ)は本当にいろいろあるので、箇条書きにします。
①土壌緩衝能の向上
CEC(塩基置換容量)を上げて保肥力を向上させるほか、pHを変動させにくくします。
②土壌の団粒化促進
砂や粘土の微粒子が寄り集まって、団子のような粒子を形成することを団粒構造といいますが、その構造のもっともミクロな(小さな)単位は、土壌中の砂粒と砂粒が腐植物質や微生物などで接着された物です。腐植と微生物は団粒化の重要な基盤といえます。
③地力窒素の発現
腐植が高い圃場は、地力窒素(可給態窒素)が高い傾向にあります。地温が高くなると地力窒素が発現し、作物によっては自動的に追肥する機能のようにはたらきます。
④リンサンの肥効を良くする
土壌中の鉄やアルミニウムは、リンサンと結合して植物が吸収しにくい固形物に変えてしまいますが、腐植酸は土壌中のアルミニウムとキレート化合物を作り(つまりアルミニウムとリンサンを切り離し)、リンサンを吸収しやすい「フリーな」状態にします。(キレート効果と水溶性腐植については、当ブログの「水溶性腐植の可能性!~植物に対するメリット~ 」も併せてご覧ください。)
腐植は放っておくと、どんどん減っていく
ところで、土壌の腐植含量と全炭素には強い相関があり、全炭素を測定すると、おおむね腐植の量を推定することができると考えられています。上の図は、堆肥使用・不使用の圃場で全炭素を測定した研究のデータですが、堆肥を使用しない(化学肥料のみの)圃場では、全炭素が自然減少しています。つまり、腐植が自然減少していくということになりますね。
腐植を維持するために必要な堆肥の量は、一般的に10aあたり2t程度だと言われています。結構な量です。堆肥が必要なのを知ってはいても、コストや手間の関係で入れることができず、気づいた時には地力が低下して・・・という圃場も多いと聞きます。
じっさい、生育・収量の悪い圃場では腐植含量が低下していることが少なくなく、新潟県でキュウリの生育が悪いハウスを診断した事例では腐植含量が2%未満とかなり低くなっていました。逆に言えば、そこを改善すればリターンが大きい可能性が高く、圃場の腐植含量を測定するメリットは大きいと思います。ご興味のある方は、いちど土壌分析されることをお勧めいたします。
腐植含量の適正値は土質と作物によって異なる
腐植含量の適正値は土質によって異なります。一般的な畑作・ハウスなどの場合、黒ボク土で6%以上、非黒ボク土で4%以上が目安で、少なくともこの水準は維持する必要があるでしょう。ただ、果樹の場合、腐植含量が高すぎると品質・収量が低下する場合がありますし、コメの場合も腐植が高すぎると倒伏や食味・収量の低下を招くことがあります。腐植の適正値は産地の自然条件や作型などによって異なりますので、同じ産地・エリアのなかで生育の良い圃場の数値を参考にすると良いでしょう。
その圃場の腐植含量の目標値を決め、それに向けてコツコツと有機物(堆肥・土壌改良材等)の施用を継続していただきたいと思います。弊社の土壌改良材では「スーパー越の有機®-2号」や「有機王®」が長期的な腐植の補給に適していると思います。ぜひお試しいただきたいです。
株式会社ホーネンアグリ 坂野(土壌医)