
軽量培土でイネもみ枯細菌病が出にくいって、本当ですか?
イネのもみ枯細菌病が増加傾向
近年の異常高温を背景に、イネの「もみ枯細菌病」が増加していると言われています。この病害は、細菌 Pseudomonas glumaeによるもので、種もみを介して伝染します。感染した種子を浸種すると、病原菌が健全な種子にも広がり、苗や穂の段階で枯死したり、不稔、さらに不完全米の原因となったりする恐ろしい病気です。
種子感染が発生の条件ではありますが、高温で発生しやすいという特徴があり、催芽・出芽温度が30℃を超える場合や、育苗中にハウス内が高温になる場合などに発病するリスクが高くなるそうです。最近は5~6月頃でも真夏日を記録することも多いですから、この時期に育苗する作型の場合は特に注意が必要かと思います。
防除の実態と改善策
もみ枯細菌病を防ぐためには、以下の基本的な対策が重要です。
①保菌していない健全な種もみを使用することと、適切な種子消毒。
②浸種から育苗の段階で温度管理。30℃を超える温度にしない。
③育苗中の温度管理。30℃以下を維持する。
被覆のかけっぱなしやハウスの換気遅れは急激な高温につながるので注意。
④苗に問題が無くても、ほ場で生育中に発病する可能性があるため、登録農薬による防除が必要。
たいへん注意深い管理と防除が必要な病害です。しかし、これに加えて、最近の研究では培土(育苗用土壌)を変更することで発病リスクを軽減する可能性が示されています。
培土を変えるだけでって、本当に?
富山県や青森県など複数の研究機関が、有機物多くを含む培土を使用すると、もみ枯細菌病の発病を軽減すると報告してます。ここで言う有機物とは、具体的にはヤシガラやピートモス、炭などで、培土の軽量化を目的に配合されることが多い資材です。つまり、軽量培土を使うと、細菌病の増加を抑えられるということになります。
一方で、軽量培土は覆土には向かないという欠点もあります。軽さゆえに種子の露出を抑える力が弱く、プール育苗やかん水によって流出する可能性もあるためです。ですから、覆土には従来の粘土質粒状土を使用するのが一般的です。
それでは、床土が軽量培土で覆土が粘土質粒状土の場合はどうなのでしょうか。秋田県農業試験場の研究では、その場合も、もみ枯細菌病発生が軽減されたそうです。
研究で明らかになったこと
富山県農林水産総合技術センターの研究では、粒状土にヤシガラを加えた場合、ヤシガラの分量が多いほどもみ枯細菌病の発生を抑える結果が得られました。
更に、発病を抑える培土ほどC/N比が高いこと(つまり、炭素を多く含んでいること)、そして細菌由来のDNAが多く、かつ多様性も高いことなどを明らかにしました。
この研究では、「微生物性がもみ枯細菌病菌の増殖や発病の軽減に関与している と考えられる。」と指摘しています。
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技術の実用と注意点
農林水産省が公開した「最新農業技術・品種2021」では、軽量培土を用いた発病抑制技術を紹介しており、そのポイントとして以下の点を挙げています。
1 有機物を多く含む軽量培土はもみ枯細菌病(苗腐敗症)の発生を抑制する。
2 有機物を多く含む軽量培土はもみ枯細菌病菌の菌密度を低減させる。
3 有機物含量が高まるにつれて発病が減少する。
4 有機物含量が高く発病が少ない育苗培土は、培土の微生物性が強く影響している。
そのうえで、育苗培土を変更するだけで取り組みやすい技術であり、特に種子ほ場においては普及の可能性があると評価しています。
とはいえ、この技術はもみ枯細菌病が増殖しにくい環境を用意するものであり、病原菌そのものを完全に抑制できるわけではありません。また、育苗期に発生する他の病害への対応も考慮する必要があります。やはり、従来の防除対策をしっかり行ったうえで、プラスアルファとして組み合わせて総合的に活用していくことが重要だと言えます。
弊社でも有機物を配合した軽量培土を製造しております。培土に関するご相談がありましたら、ぜひお問い合わせください!
参考文献:
埼玉県農産物安全課 病害虫診断のポイントと防除対策 No.7 イネもみ枯細菌病
農林水産省「最新農業技術・品種2021」 有機物含量の高い軽量育苗培土を用いた育苗期のもみ枯細菌病の発病抑制
青森県農林総合研究所「令和4年度普及する技術・指導参考資料」水稲のもみ枯細菌病の育苗培土による発生の違い
富山県農林水産総合技術センター 有機物含量の高い軽量育苗培土におけるもみ枯細菌病(苗腐敗症)の抑制 三室元気・他3名
秋田県農業試験場 イネもみ枯細菌病に対する有機物含量の多い水稲育苗培土の発病軽減効果 渡辺恭平・齋藤隆明・他1名